英国のすばらしい人々

モリスという人(2)

2009年10月22日
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ある秋晴れの日、私はコッツウォルズにドライブに出かけました。





そして、そのドライブの途中にあった





「ケルムスコット・マナー(Kelmscott Manor)」

(↑日本語の情報が見られます)



を昨日はご紹介いたしました。







そこまでのお話をお読みでない方は、よろしければ以下のリンクからお読みになってくださいね。





車 ある日のコッツウォルズ・ドライブ(1)
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車 ある日のコッツウォルズ・ドライブ(2)
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家 モリスという人(1)
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ここからは昨日の記事の続きになります。





昨日ご紹介いたしました、ケルムスコット・マナーの一時の主であり、英国のヴィクトリア時代の中に生きた、近代デザインの父と呼ばれるウィリアム・モリスという芸術家をご紹介いたします。




今回は彼が世に残した功績の大きさもさることながら、少し数奇ともいえるプライベートな生活にも焦点を当ててみたいと思います。







ウィリアム・モリスと聞いて思い浮かぶのが、まずこんなデザインだと思います。






     






こちらは楽天市場で扱われていた壁紙なのですが、これをデザインしたのがウイリアム・モリスなのです。モリスのデザインはコッツウォルズの自然からインスピレーションを得たものといわれています。












ウィリアム・モリスは1834年にロンドン・シティの証券仲買人の裕福な家庭に生まれました。モリスは幼少の頃より病弱であったものの、とても勤勉だったモリスは4歳になった頃には、ウォルター・スコットの長編小説を読みこなしていたと言われています。




大学に入学する前からモリスは絵画や建築にも興味を持ちはじめました。最終的にはモリスは、詩人、芸術家、家具などの製造、社会主義者として知られることになります。




モリスはオックスフォード大学のエクセター・カレッジに進学し、そこで社会評論家のジョン・ラスキンの書物にふれたことが彼の後の人生を方向付けていくことになります。





オックスフォード大学の中ではラスキンの書物以外にも彼の人生に影響を与え、また喜びや苦しみを与えた人々との出会いがあります。





モリスはオックスフォード市にある、多くの英国の首相や世界各国の政治家を輩出したオックスフォード・ユニオンという討論団体の建物の壁に、壁画としてアーサー王伝説に登場する王妃グィネヴィアを描くという仕事を仲間とともに行いました。





そこで運命的な出会いがあります。それは彼の人生を翻弄することになる女性で後にモリスの妻となる、ジェーン・バーデンと出会いでした。ジェーンは、モリスの親友で画家であったダンテ・ガブリエル・ロセッティのモデルとしてそこで働いていたのです。





当初、壁画はロセッティの婚約者のエリザベス・シダルという女性ををモデルに制作されていたのですが、制作が難航したとき、ロセッティが気分転換に、と出向いたロンドンの下町の劇場でやはり観劇に訪れていたジェーンを見つけたのです。そしてジェーンをモデルに壁画を描くことにしたのです。






英国・コッツウォルズより愛をこめて




       

        ロセッティによって描かれたジェーン





美しいジェーンは、そこにいた画家たちのミューズ的存在となり、彼らをとりこにしてしまいました。モリスもそんなジェーンににたちまち心を奪われます。ジェーンは貧しい馬丁の娘だったために周りの反対を受けますが、二人はその反対を押し切って結婚します。





モリスにとっては神秘的な美しい女性が彼が芸術的インスピレーションを得るために必要であり、ジェーンにとっては経済的困難から脱却するためにモリスが必要だったのでした。





―― ここまでは、ドラマティックとはいえ、よくあるようなお話ですね。ここからがモリスの人生の大変なところです。




二人がそれぞれ必要とするものを補いあえる結婚でしたが、問題はジェーンが本当に愛していたのはモリスの親友であったダンテ・ガブリエル・ロセッティだったことでした。モリスにとってはジェーンもロセッティの両方とも必要な人物でしたので、モリスは、ジェーンとロセッティの関係をを知りながらもジェーンと結婚したのでした。




モリスとジェーンは結婚し、ロセッティはもともとの婚約者のエリザベスと結婚することになるのですが、それでもロセッティとジェーンは互いに惹かれあっていました。そしてロセッティの作品にしばしばジェーンがモデルとして登場するようになってくるのです。





繊細で病気がちなエリザベスにとってジェーンの存在は、当然のごとくエリザベスの心痛の種となります。不幸なことは重なるもので、ロセッティとエリザベスは授かった子供も死産で失うことになります。そしてエリザベスは、ある薬におぼれるようになり、結婚2年目のある日大量の薬を服用して自殺同然の死を遂げます。





エリザベスの死を悼んだロセッティによって描かれたのが、「ベアタ・ベタトリクス」になります。






英国・コッツウォルズより愛をこめて




「ベアタ・ベタトリクス」(テート・ブリテンで見ることができます)









ここで、モリスとロセッティの自画像をお見せいたしましょう。




英国・コッツウォルズより愛をこめて
 英国・コッツウォルズより愛をこめて


     モリス自画像           ロセッティ自画像




モリスは結婚後も精力的に仕事をこなしていきます。そして結婚の翌年には「アート&クラフツ運動」の鍵となるロンドン郊外の「レッド・ハウス(Red House)」に移り住みます。







英国・コッツウォルズより愛をこめて





「アーツ&クラフツ運動」は産業革命の結果、ヴィクトリア時代に蔓延していた安価で粗悪な商品があふれていた風潮を是正しようというもので、中世の手仕事にたちかえり、生活と芸術を統一するということを主張した運動です。





この「レッド・ハウス」は、中世のスタイルを取り入れるというモリスの意向にそって、彼の親しい友人の建築家、フィリップ・ウェッブによって設計され、壁紙からカーペット、タペストリーからステンドグラスにいたるまで、すべてモリスとその友人たちの手によって仕上げられ、「世界で最も美しい家」といわれています。










英国・コッツウォルズより愛をこめて









レッドハウスとは、その時代では当たり前であった漆喰の外壁仕上げをせず、建築材である赤レンガをそのままむき出しの外壁としていることから名づけられました。







   英国・コッツウォルズより愛をこめて




  モリスがここに住んでいたという銘板「ブルー・プラーク」








モリスにとっては思い入れのある家「レッド・ハウス」だったに違いないのですが、諸事情が重なりここに住んだのはたった5年間となってしまいました。







諸事情というのは、「レッド・ハウス」では多くの友人たちと家を共有していたモリスですが、そのことが家を出なければならなくなった原因のひとつとなりました。最終的には喧騒からのがれてコッツウォルズのケルムスコット・マナーに住まうことになるのです。







英国・コッツウォルズより愛をこめて


         夏のケルムスコット・マナー





このケルムスコット・マナーに越してきたもうひとつの理由は、ジェーンとロセッティの親密な関係を世間から隠すためだということです。この邸宅での「地上の楽園」的な生活は、奇妙な三角関係のなか始まったのです。「地上の楽園」はモリスの叙事詩ですね。





輝く平原の物語/ウィリアム モリス





妻のジェーンに対していろんなご意見がおありになるかと思いますが、ジェーンはただの美しい女性ではありませんでした。彼女は刺繍家としてモリスのデザインする、カーテンやタペストリーにそれは美しい刺繍を施し、作品を芸術の域にまで高めるという大きい手助けをしていたのです。







ですので、このケルムスコット・マナーでの生活は、三人の共同生活のうえ、三人各自のおびただしい芸術活動が展開されるという、ふつうでは想像もできない生活をおくっていたようです。




その間も、ロセッティは妻への罪悪感にさいなまれ次第に心身を病み自殺を図ったこともありました。そして最終的にはジェーンとは別れ、晩年は世間的な成功は得たものの、お酒と薬におぼれる生活で不眠症になっていたようです。そして54歳という短い生涯を終えるのです。







その頃からモリスは、プロレタリアートを解放して、生活を芸術化するために、根本的に社会を変えることが不可欠だと考え、マルクス主義を熱烈に信奉し、カール・マルクスの娘らと行動をともにし、社会主義協会まで結成します。そして62歳で彼の生涯を終えます。





一方モリスの妻、ジェーンはロセッティだけにとどまらずモリスとの結婚生活の間も何人かの愛人がいたようで、最終的に75歳まで生きました。





果たしてだれが人生の勝利者かということは差し置き、この三人だけを取り上げても様々な人生、そして各人の心模様が見え隠れしますね。





       ベル 3秒だけお時間をください!ベル



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英国・コッツウォルズより愛をこめて







モリスデザインの壁紙

ウィリアム・モリスの壁紙をはれば、そこは英国の中世のようなお部屋になりますね。


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11 Comments

  • Reply もっち 2009年10月22日 at 7:43 AM

    1 ■無題
    モリス、大好きです。博物館、行った様な記憶が、、?!
    こんな素敵な壁紙で暮らせると、、、うっと~り☆
    http://ameblo.jp/netdehappy/

  • Reply GOO 2009年10月22日 at 12:01 PM

    2 ■あこがれの地です
    私の憧れの地でお暮らしなんですね。
    これから、ちょくちょく読まさせていただきます。
    今後ともよろしくお願いします。
    http://ameblo.jp/log-life/

  • Reply akibo 2009年10月22日 at 11:17 PM

    3 ■無題
    子どものころから、ウィリアム・モリスの活動やデザインは漠然としって関心をもっていましたが、そのようなことがあったなんて、はじめて知りました!
    とても興味深く、読みいってしまいました。
    また、様々なお話、楽しみにしています^^。
    http://ameblo.jp/87smiles/

  • Reply 建築エコノミスト森山(今日は防音リフォームセミナーの話) 2009年10月22日 at 11:57 PM

    4 ■アーツ&クラフツ運動
    というのは自然と人間の関係をアートとマイスターの職人芸で表現したところが多くの人たちの感動を呼び覚ましたのだと思います。
    日本の伝統工芸にも通じるニュアンスですよね。
    マッキントッシュなどもぜひご紹介ください。
    http://ameblo.jp/mori-arch-econo/

  • Reply 英国アンティークス・Mia 2009年10月23日 at 6:19 PM

    5 ■Re:もっちさんへ

    >もっちさん

    いつもコメントをありがとうございます。おそらくロンドンのヴィクトリアン&アルバート博物館内でご覧になったのかもしれませんね。

    それにしてもモリスは自分の気に入った壁紙がないから、ということで壁紙のデザインを始めたそうです。強い意志とパワーの持ち主ですよね。

    Mia



    http://ameblo.jp/eiokuantiques/

  • Reply 英国アンティークス・Mia 2009年10月23日 at 6:21 PM

    6 ■Re:あこがれの地です(GOOさんへ)

    >GOOさん

    今日はブログへのご訪問とコメントを頂戴いたしましてありがとうございました。

    また英国のことを気に入っていただけたようでとてもうれしいですし、こうやってブログを書いている甲斐も感じさせていただきましたことを重ねてお礼申し上げます。どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

    Mia


    http://ameblo.jp/eiokuantiques/

  • Reply 英国アンティークス・Mia 2009年10月23日 at 6:34 PM

    7 ■Re:akiboさんへ

    >akiboさん

    私のブログをご訪問の上、こうやってコメントまで頂戴いたしましてありがとうございました。

    モリスのちょっとかわった私生活は、こちらでは時々テレビ番組などで、人々に取り上げられています。それにしても大変な人生ですよね。

    どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

    Mia


    http://ameblo.jp/eiokuantiques/

  • Reply 英国アンティークス・Mia 2009年10月23日 at 6:40 PM

    8 ■Re:アーツ&クラフツ運動(建築エコノミスト森山(今日は防音リフォームセミナーの話)さんへ)

    >建築エコノミスト森山(今日は防音リフォーム
    セミナーの話)さん

    今日はコメントをありがとうございます。

    そうですね、モリスは「美しいもの」だけを家の中に取り入れる、という強い信念を持って、自分の世界を表現していたようです。そして、それを突き詰めていくと、芸術だけの世界ではおさまらないことに気づき、社会主義運動にまで発展していったようです。

    ただし、いいものをつくるが故、価格も高くなり、すべての人に受け入れられるものではなくなったため、モリスが目指した世界を実現する難しさはあったようですね。

    Mia


    http://ameblo.jp/eiokuantiques/

  • Reply SFのカバ 2009年12月1日 at 8:50 AM

    9 ■ウィリアム モリスのスカーフ
    Mia さん、初めまして! 
    つい最近、ある クラシック音楽の方のブログで Mia さんのことを知りました。
    私のおちゃらけブログなどとは違って、非常に丁寧で、写真とかもいっぱい掲載されており、詳しい説明もなされており、本当に素晴らしいブログですね。
    感心しております! 

    さて、ウィリアム モリスに関してですが...彼についてはこれまでに少しは聞いておりましたが、とても詳しく説明して頂いており、勉強になりました!
    私が、モリスのことを知りましたのは、実は、NYCのメトロポリタン美術館で購入したスカーフでなのです。
    4年ほど前になんとはなしにどこか好きになって、これまでに3枚ほど購入しました。

    それから、リチャード ブランソン氏の写真を見つけてビックリでした。
    というのも、つい先日ヴァージン エアーラインについてちょっとブログに書いたばかりなのです。
    こちらの方も実に詳しく説明していただいており、
    実に感心させられます!
    これから、Mia さんのこれまでのブログをじっくりと読まさせてもらおうと思っております。

    これからも英国*コッツウォルズのご紹介など、宜しくお願いいたします!









    http://ameblo.jp/kaba-sanfrancisco/

  • Reply 英国アンティークス・Mia 2009年12月1日 at 8:13 PM

    10 ■Re:ウィリアム モリスのスカーフ(SFのカバさんへ)

    >SFのカバさん

    私のほうこそ、ブログをお訪ねいただきました上に、ご丁寧なコメントまで頂戴いたしましてありがとうございました!

    メトロポリタン美術館にもモリスの作品があるんですね、知りませんでした。「美しいもの意外は家の中に持ち込まない」という彼のポリシーですが、そうありたいと思いつつ我が家は子供のおもちゃなどでひっくり返っています(笑)。

    どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

    Mia


    http://ameblo.jp/eiokuantiques/

  • Reply mikkon 2011年10月11日 at 12:31 AM

    1. 彼の業績
    彼のことが書かれていてとても楽しく拝見させていただきましたー。
    彼の私生活は別として、芸術家としての才能は素晴らしいものがありますね。
    自然を愛した彼の息吹が装飾品に込められていてうっとりしてしまいます。
    これからも記事・写真楽しみにしています。
    http://ameblo.jp/mikkon2010/

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